『死線 〜deadline〜』


U.C.0088年が明けた。

後世に“グリプス戦役”と称せられることになる戦いは最終局面を迎えようとしていた。
エゥーゴの大反攻が開始され、ネオ・ジオンの介入も相まって情勢は混乱の極致にある。
1月18日、ゼダンの門を巡る戦闘とコロニーレーザーに改装されたグリプス2の失陥によりティターンズの戦力は大打撃を受けた。
翌日、その穴を埋めるためにコンペイトウ駐留艦隊にも出撃準備命令が下る。
しかし前年11月、エゥーゴが連邦議会をジャックした『ダカール事件』によりティターンズの実情が暴露されて以来、
連邦本軍との関係は徐々に悪化しつつあった。
同じ基地の中にありながら敵対するには至らないまでもどことなく漂う緊張感は隠しようもなく、
巧妙なサボタージュもあって準備は遅々として進まないままに時間だけが過ぎてゆく。
そんな中でジャミトフ総帥戦死の噂が流れてやがてその事実が確認されると、
さしものティターンズも統制が乱れて連邦本軍へ復帰(という名分でティターンズから脱落)する部隊すらも出始めた。
2月に入るとエゥーゴの『メールシュトローム作戦』発動によりグリプス2はネオ・ジオンからエゥーゴへと所有者を変える。
コンペイトウ近辺に有力なエゥーゴ艦隊が遊弋しているという未確認情報もあって出撃は延びに延びていたが、
グリプス2奪還のためにこれ以上猶予はならないとついに2月15日に至り、準備がいまだに終わらぬまま出撃が決行される。
既に連邦本軍による進路啓開の協力すら望むべくもなく、艦隊とは名ばかりの集団は早くも周囲の警戒を厚くせざるを得ないのだった…
 【ティターンズ艦隊】
元コンペイトウ駐留艦隊旗艦
アレキサンドリア級巡洋艦
『アル・ギザ』 第802MS戦隊
RMS-154×8
RGM-79Q×1

MS-06E-4×3
RMS-119×2
マゼラン級戦艦 『アドミラル・ゴップ』 -
第172特設戦隊
サラミス改級巡洋艦
『テノチティトラン』(戦隊旗艦) 第810MS戦隊
RMS-154×8
『サンタ・フェ・デ・ボゴタ』 第813MS戦隊
RMS-106×3
RMS-154×5
第193特設戦隊
サラミス改級巡洋艦
『ナスカ』(戦隊旗艦) 第822MS戦隊
RMS-154×4
『マチュ・ピチュ』 第831MS戦隊
RMS-108×7
コロンブス改級輸送艦 『バンゲリング・ベイ』 RMS-106×2
RMS-108×3
RMS-117×2
RMS-154×3
『ムーミンズヴァレー』 RMS-179×5
RMS-106×3
RMS-108×2
RMS-117×2
 ※表中の機種名は以下の通り。
RMS-154『バーザム』、RMS-106『ハイザック』、RMS-108『マラサイ』、RMS-117『ガルバルディβ』、
RMS-179『ジムII』、RMS-119『アイザック(先行量産型)』
また以下の機体は当作品のオリジナル設定。RGM-79Q『ジム・カスタム(改)』、MS-06E-4『ザク・フリッパー改』
なおコロンブス改級の二艦は簡易MS母艦としての艤装が施されているが、
今回の作品において搭載機は部隊として組織的には運用されていないことになっている。


緊張と連戦、そして悪化する戦局により疲労の度合いを増した将兵の中にあって、
旗艦『アル・ギザ』でMS小隊長を務めるベルナルド・モンシア少佐はひとり闘志を燃やしていた。
いち士官として戦争そのものの趨勢はいかんともし難いものの、敗北に殉じる気など毛頭持ち合わせてはいない。
一年戦争以来の最古参として熟練の域に達した己の技量と、愛着のある機体があれば活路は必ず開ける…

「はッ、誰が来ようと邪魔するヤツは叩き潰すだけだぜ!」

自身に向けて、というより周囲へ喝を入れるように殊更大きな声を張り上げる。
エリート集団とうたわれたティターンズの精鋭パイロットたちも、さすがにここひと月ほどは停滞のうちにある。
そんな彼らを奮い立たせようとする程には、彼も指揮官としての器量を備えるようになっていたのだった。
だが、そんな彼の努力を打ち砕くような報が駆け巡る。

「コンペイトウより追尾してくる部隊がある、だと?」
「後方に残してきた監視ポッドからの情報によると、連邦本軍駐留艦隊の一部のようです」

オペレーターからの索敵報告を受け、『アル・ギザ』のブリッジに座乗する艦隊司令は口元を歪めた。
報告に拠れば、ティターンズ艦隊より一日遅れでコンペイトウを出航した部隊が、当艦隊を追尾するようにその航跡を辿りつつ航行中だという。
規模は概算ながら当艦隊を上回り、相対距離は少しずつ縮まりつつあるとのこと。
 【連邦軍コンペイトウ駐留艦隊分遣追跡部隊】
分艦隊旗艦
マゼラン改級戦艦
『グナイゼナウ』 第402MS戦隊
MSA-007×6
MSA-007E×3
第86戦隊
サラミス改級巡洋艦
『セイロン』(戦隊旗艦) 第430MS戦隊
RGM-86R×4
『スワトウ(汕頭)』 第431MS戦隊
RGM-86R×4
『マカッサル』 第432MS戦隊
RGM-86R×4
『ペリリュー』 第433MS戦隊
RGM-86R×4
第94戦隊
サラミス改級巡洋艦
『プロヴィデンス』(戦隊旗艦) 第440MS戦隊
RGM-86R×4
『ボンベイ』 第441MS戦隊
RGM-86R×4
『トンブクトゥ』 第442MS戦隊
RGM-86R×4
『アデレード』 第443MS戦隊
RGM-86R×4
 ※表中の機体名は以下の通り。
MSA-007『ネロ』、MSA-007E『EWACネロ』、RGM-86R『ヌーベルジムIII』
なおこの作品中におけるMSの配備状況については『ガンダム・センチネル』を参考にした。

「艦隊速度を上げられんのか?」
「司令、『アドミラル・ゴップ』が機関不調によりこれ以上の巡航速度は発揮不能とのことです」
「ええい、足手まといが… よくよく祟られる!」

参謀長の言葉に、司令はさらに渋面を作った。一日分の差を保てなければいずれ追いつかれることになる。
この期に及んでそのような大兵力で連邦本軍がティターンズに手を貸すとも思えなかった。
さすがに戦闘を仕掛けてくるとまでは考えがたかったが、エゥーゴと呼応して当艦隊を牽制するということは充分考え得る。
グリプス2を巡って決戦が行われようとしている以上、当艦隊はティターンズ艦隊の本隊と合流することが第一目的なのだが、
こちらに向かいつつあるというエゥーゴ艦隊と会敵すれば一戦は避け得ないだろう。
ただでさえ戦略、戦術双方において制約が厳しい上にこの航行の遅延である。
今更放り捨てるわけにもゆかないのが歯痒いところであり、せいぜい八つ当たりでもせねば気が収まらなかったのだ。

…どうも、艦には縁起というものがあるらしい。かつて連邦軍の高官を務めた人物の名が、この艦名の由来だった。
ゴップ提督は一年戦争終結後に退役し、その後も政・軍双方に隠然たる影響力を発揮していた。
戦後に再軍備が行われた際、彼は手を回して新規建造されたマゼラン級戦艦の一艦に自らの名を据えたのである。
だがこの艦は何が悪いのかしばしば故障を起こして出入渠を繰り返し、戦力として寄与することは少なかった。
乗員は揶揄と諦めを込めて、艦名の由来となった提督の現役将官時代の姿が投影されているのだ、と噂し合った。
だが幸か不幸かそのために艦の老朽化は進まず、元々が戦後竣工のグループに属することもあって
U.C.0080年代半ばから始まったマゼラン級の“航空戦艦”への近代化改装は先送りにされ、結局そのまま現在に至っている。
つまりこの艦はMS搭載能力を有しないという同クラスでも現在においては希有の一艦なのだった。
そのため使い所に欠け長らくコンペイトウに駐留していたが、この期に及んで何故か同行を主張した。
戦力として著しくバランスを欠くものの、猫の手も借りたい程のティターンズの台所事情が天秤の傾きを決したのである。
だが案の定、というべきか半ば慢性的の観がある機関不調を起こし、早速司令部の悩みの種を増やしていたのだった。

「やむを得ん、現状のまま前進を続ける。エゥーゴ艦隊がそろそろ出てくるかもしれん。それと後方の警戒も怠るなよ」

前方の針路を啓開すべく、『アル・ギザ』より五機の偵察機が放たれた。
うち二機は新型の『アイザック』先行量産型であり、扇形に開いた五本の索敵線を在来機の『ザク・フリッパー改』と交互に担当している。
既にコンペイトウの位置するラグランジュ−5ポイントから月周回軌道への航路の半ばにさしかかっており、
何らの抵抗もないままこれ以上進めるというのは虫が良いというものだろう。
コンペイトウの連邦本軍から月−グリプス2近辺に展開したエゥーゴ部隊に情報が流れている可能性も高く、
この索敵で何も発見されないとはさすがに考えがたいものがあった。果たして…

「二番機より通信! エゥーゴ艦隊を発見しました!」
「いたか!」

右から二番目の索敵線を担当していた『アイザック』の一番機から通信が入る。
新型偵察機だけあって、ミノフスキー粒子の高濃度宙域でも母艦との間に通信を確保しているのはさすがである。
続報に拠ればエゥーゴ艦隊はこちらより若干ながら優勢で、当艦隊を阻止すべく出撃してきたことは疑いようがない。
 【エゥーゴ迎撃艦隊】
艦隊旗艦
マゼラン改級戦艦
『ガラティア』 第28MS戦隊
MSA-003×8
第16戦隊
サラミス改級巡洋艦
『チャンセラーズヴィル』(戦隊旗艦) 第35MS戦隊
MSA-003×6
『ヴィックスバーグ』 第39MS戦隊
MSA-003×5
『インディアナポリス』 第47MS戦隊
MSA-003×3
『バトンルージュ』 第63MS戦隊
MSA-003×6
第25戦隊
サラミス改級巡洋艦
『ライプツィヒ』(戦隊旗艦) 第44MS戦隊
MSA-003×6
『マルセイユ』 第70MS戦隊
MSA-003×4
『タイユワン(太原)』 第71MS戦隊
MSA-003×6
『ラス・パルマス』 第84MS戦隊
MSA-003×5
※表中の機体名は以下の通り。
MSA-003『ネモ』
なおサラミス改級の本来のMS搭載数は3機とされるが、実際にはその二倍から時にはそれ以上の機体を搭載したとされる。
もちろんその場合には、格納庫に入りきらない機体を甲板上に露天繋止するなど運用効率の低下を招いた。

「司令、一戦交えますか?」
「バカな、回避だ!」
「しかし、完全に迂回しようとすればグリプスへの到着が遅れます」
「…だろうな。仕方ない、できる限り直接衝突は避けつつ強行突破だ。総員戦闘配置!」

艦内にサイレンが鳴り響き、兵員は慌ただしく各々の持ち場へと飛んでゆく。
MSパイロットは作戦室へと集合していた。一同を前にして、戦隊長のアルファ・A・ベイト中佐が口を開く。

「ようやくお客さんが姿を現した。 …といっても出迎えにしちゃあ少々物々しいがな。
 だが、我々の最終的な目的はグリプス2の奪回だ。ここで真っ向からドンパチする訳には行かない」
「それじゃ、避けて通るってか? はいそうですか、とは行くめェな」

モンシア少佐がコンソールを操作して、戦略目標を最優先とした場合の予想針路を算出する。
しかし何度か条件を変えてみたが、戦闘を完全に回避するという場合に望まれる解答は得られなかった。
チャップ・アデル少佐が条件を現状に即したものに改め、もう一度計算を行う。

「やはり、強行突破は避けられないでしょうね」
「実質ではそうなるだろうな。後は、できるだけ交戦を小規模なものに留めたいが… その辺は艦長と司令の役目だ。
 俺たちは戦術レベルで最善と尽くすとしよう。そこでだ−」

ベイト中佐はメインスクリーンの表示を切り替えると、『アル・ギザ』以下艦隊のMS隊配備状況を表示させる。
今回の出撃で、ティターンズはコンペイトウを引き払ったに等しい。
可動機をできうる限り搭載したのだが、出撃準備時の混乱で各艦への搭載状況はばらけきってしまい、
定数を上回るMSを甲板に露天繋止までしたにもかかわらず組織的な運用が困難なものになっていた。
またパイロットも在来編成以上に乗艦してきたため、司令部でもその全容を完全には把握しきれずにいたのである。

「やれやれ、これじゃ作戦の立てようもない…」
「頭数だけ多くてもなあ。とりあえず三分の一を直衛に残して、あとの三分の二で敵艦隊突破を図るか?」

ぼやくモンシアに、ベイトはそれでもできうる範囲で戦力の配分を計算し始める。
そこへ、アデルが口を開いた。

「中佐、今回は突破戦ということで、艦隊どうしの反航戦となる可能性が高いでしょう。
 その時直衛と前衛が離れていると艦隊の被害が増加する恐れがあるのではないでしょうか」
「そうか、ならば直衛に多くを割いて…」

スクリーン上で次々とシミュレーション画像が変化し、予想される展開が提示される。
ベイトの試算に今度はモンシアが口を挟んだ。

「いや、俺たちの防御陣が固まっていると、一気に突破されたときに危ない。それよりは、
 多少の間隔を取りつつ複数の集団に別れた方がいいだろう。
 個々の集団の規模は小さくなっても、敵の浸透に時間差を付けることができる」
「そうか、我々の目的は奴らの撃滅じゃない。ここでは戦闘を拡大せずに振り切ることを第一に目指すとするか」

それでは、とさらに条件を入れ替えるとまず妥当と思われる判断が下された。
そして最終的な調整を施すと司令部に裁可を仰いだ。MS隊の運用は実質的にベイトに委ねられていたが、
今回は大規模な艦隊戦となるので上級司令部に確認をとったのだ。
数分後、司令部が得た新たな情報を加えて再検討し、微修正を施された上でゴーサインが下る。
ベイトはその内容を確認して麾下のパイロットへと伝達した。
このブリーフィングは一般的な上意下達の型式からは外れるが、
彼ら三人の長年の経験と実績から鑑みて司令部からも認められているのである。
また彼らは敢えてこのディスカッションを部下のパイロットにも見せることで、
一人一人が指揮官としての判断を下せるように経験を積ませてもいた。
もとより彼ら自身のような以心伝心の域に達するには長年の経験が必要ではあるが、
ティターンズに属するからにはいちパイロットとしては優秀であることが前提の条件となっている以上、
そのレベルに甘んじることなくより広い視野を養成するための一環として位置づけられていたのである。

「よし、では第一陣はモンシアの第二小隊、続いて第二陣はアデルの第三小隊が出る。俺は直衛に付きつつ戦況に応じて動くとしよう」
「了解!」
「了解しました」

衆議は決した。あとは小隊レベルでの細かい打ち合わせを行い、程なくして各員がMSデッキへと移ってゆく。
ベイトはもう一度メインスクリーンを見上げる。そしておもむろにキーに指を走らせると、地球圏全図の戦況を表示させた。
すでに各宙域でティターンズの優位は失われ、エゥーゴの勢力に混じってネオ・ジオンの不気味な胎動が見え始めていた…

「今更、な… だが、諦めはしない。バニング隊長、俺はやるぜ…!」

迷いを断ち切るように、スクリーンをシャットダウンするとベイトは最後に部屋を後にした。


「モンシア小隊を優先して出せ! 一番、二番デッキを両方使って構わん!」
「ライフルのエネルギーパックが足りないぞ! こっちに回してくれ!」
「後がつかえてるんだ、バズーカで出させろ!」
「『フリッパー改』に当分用はない、奥に下げるんだ!」

彼我の艦隊は反航体勢にあるため、刻々とその距離は近づいてゆく。
『アル・ギザ』のMSデッキでは搭載機の発進準備に追われており、僚艦でもおそらくは同様の光景が繰り広げられているはずだった。
そんな中、モンシアの登場する『ジム・クゥエル改』は一番デッキのカタパルトに乗り込んで最終チェックを行っていた。

「駆動系、オールグリーン。センサー、オールグリーン。スラスター異常なし。武器(ウェポン)セーフティー、巡航モード確認。
 モニターのチェック…… おい、ゾーンE-8の輝度が若干落ちているぞ!」
「すみません! 交換が必要ですか?」

彼の機体は特別改造によって全天周モニターを装備していたが、その左隅に位置するモニターパネルに僅かな不調が検出されていた。
モンシアの気性を知り尽くしているメカマンは雷に打たれたように恐縮してみせたが、
あくまで安全チェックにおける軽微なエラーであり、出撃を前にした今となってはそちらが優先事項だった。

「いや、実戦には影響ないレベルだ。このまま出る!」
「了解! カウントダウンに従って下さい。御武運をお祈りします!」
「おうよ!」

モンシアは出撃のゴーサインが出たのを確認すると、カタパルトからの射出のショックに備えて機体を沈み込ませる。

「よし… モンシア少佐、ジム・クゥエル、出るぞ!」
「3、2、1… GO!」
「くうッ……!」

その瞬間、ガクンという激しい衝撃が機体とモンシアの身体を揺さぶった。
何度経験しても体の芯から慣れることはけしてないだろうと確信できる感覚だが、
その余韻に浸る間もなく機体は文字通り滑る、というより引きずられるように前方へと加速してゆく。
他者に身を委ねて強引に振り回されるというのはどうにも虫の治まらないものだが、
毎回そんなことを考えている内にも長いようで短いこの“儀式”は終わってしまうものだった。
カタパルトがその先端まで達すると、十分な初速を与えられた機体は宇宙空間に飛び出してゆく。
視界に余裕が出てきたところで左右を見渡せば、全天周モニター上には次々と発艦してゆくMS隊の姿が映し出されていた。

「5、8、12… 思ったより少ないな。前進できるのはあと10機程度か?」

各MSはスラスターからの噴射炎を引きながら小隊ごとに集合し、所定の通りに間隔を調整してゆく。
モンシアも二番機以下が追随してくるのを確認するとコンソールに表示される戦術スクリーンを確認しながら指示を出す。

「ラッセル! カラミス! 針路を+12修正しろ! 艦砲の射線上に入っているぞ!」
「了解!」
「はいッ!」

それに従って僚機が針路を変えると、その一分後に後方から飛来した数十本のオレンジ色の光芒が彼らを追い抜いていった。

「始まったか…」

母艦からの支援砲撃が放たれ、エゥーゴ艦隊が存在すると思しき方向に吸い込まれてゆく。
その中でも他を圧する光の束は、おそらく『アドミラル・ゴップ』の主砲が発したものだろう。
MSの存在意義が絶対化したこの時勢においてもそのプラットホームとして母艦の存在は不可欠であり、
大艦巨砲主義の申し子たるマゼラン級戦艦の砲撃力は他を圧していた。
現時点において、単艦の、こと長距離砲戦能力において同クラスを上回る艦は確認できる限りティターンズ総旗艦『ドゴス・ギア』一艦のみである。
さらに現存するマゼラン級戦艦のほとんどがMSデッキを設けるため艦首の主砲を二基四門減じているのに対し、
よりによって改装を受けていない『アドミラル・ゴップ』は当初の砲戦力を維持していたのである。
マゼラン級戦艦は本来が艦首=進行方向に向けて主砲の全七基のうち五基十門を指向できる設計になっているため、
改装後は三基六門と四割減になってしまっているのに比べて原型ではあくまでも砲戦力においてのみながら優位を保っていたのだった。

その『アドミラル・ゴップ』がお荷物から一転して持てる力を存分に発揮した数十秒後、
はるか遠方でいくつかの光が煌めいたかと思うと、先に勝る程の応射に見舞われる。

「やはり、数は向こうの方が上か…」
「隊長、813戦隊が!」

悲鳴のような部下の声にその指す方向へ目を向けると、同行する第813MS戦隊の隊列に穴があいていた。
『バーザム』と『ハイザック』の混成からなる同戦隊の、第一陣に加わっている内から二機が消失している。
主砲クラスの艦砲でMSを狙い撃ちするのは不可能に近いが、斉射の射線上に捕らえられてしまえばなすすべもない。
幸いにもそれ以外の損失は見られないようで、しばし応酬される艦砲射撃を避けつつモニターを凝視し続けると、
やがて前方から小さな光点が多数吐き出されてきた。

「敵艦隊よりMS隊発進!」
「よし、三分後には接触するぞ! 戦闘隊列を組む!」

それを合図に、各小隊は隊長機を戦闘に「く」の字型のフォーメーションに移行した。
一般機で構成されたMS小隊は基本的にこの戦闘単位を基本として戦ってゆくことになる。
高級機の場合は単独で行動する場合が多いのだが、この宙域には該当する機体は配備されていなかった。
敵方も同等の編成と見え、スクリーンで光点が判別できるようになると三個ひとまとまりとなっているのが分かる。

「いいか、艦隊から引き離すんだ! だが深追いはするんじゃねえぞ!」
「はっ!」
「ラジャー!」

モンシアはモニターを一瞥すると、ひとつの敵小隊へと狙いを定める。連携が甘くやや孤立気味の編隊は、
戦場においては真っ先に屠られるべき存在だった。
敵もこちらに気付いたか回避運動を取り始めたが、その数瞬の遅れが致命的だった。
隊長機と思しき戦闘の『ネモ』に狙いを定め、ビームライフルのトリガーを入れる。

ドウンッ!

もちろん、爆発音が直接耳に届くわけではなかった。しかし経験がそれを感覚として伝えてくる。
一撃でネモは四散し、やはり指揮官を討たれたらしく残りの二機の機動が動揺し始めたのが目に見えて分かった。
センサーで周囲に細かく気を配りつつ、モンシアは僚機を引きつれ敵を追い込んでゆく。

「やはり、乱戦は避けられねえか…」

瞬間的にではあるが周囲を見回してみると、既にあちこちで彼我のMSが入り乱れていた。
現時点で目立って優劣ははっきりしていないが、少しでも敵の戦力を削るに越したことはない。
さしあたって前方を逃げまどう二機の『ネモ』を仕留めるべくブーストをかけてゆく。

「ラッセル! カラミス! 続け!」

U.C.0088年2月21日。月軌道近傍宙域において『アル・ギザ』MS隊最後の戦闘が幕を開けた。


 続く…かもしれない?

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